褒めて愛して支配して
 移動教室で人の姿がなくなった室内に足を踏み入れた柏木は、吸い込まれるように後に続く俺を振り返った。戸、閉めて。抑揚のない声で指示を出す柏木。文句も言わずに、言えずに、後ろ手で静かに戸を閉める俺。彼とは主従関係が確立していた。あの男子生徒のコマンドよりも、彼のコマンドの方が圧倒的に威力は強く、満たされる度合いも桁違いだった。それも俺が柏木に心を奪われているからというのもあるのだろう。俺は彼に惚れている。支配されるのなら、他の誰でもない柏木がいい。

「篠宮」

 名前を呼ばれ、意識的に瞬きを一回。瞳を揺らしながら柏木を見ると、顔色の変わらない彼が徐に手を伸ばすところだった。あ、褒めて、もらえる。かも。期待して、頭を撫でやすくするように僅かに俯く、けど、与えられたものは褒めるでも撫でるでもなく、伸ばしたその手で髪を掴み俺の顔を覗き込んで放った、躾を続ける意味のコマンドだった。

「"Kneel(跪け)"」

「は、あ……」

 全身を貫く高揚感に息を漏らしながら、俺はその場に崩れた。指示に従うことで、本能的に悦びを感じる。柏木。柏木。支配して。もっと。俺を。支配して。柏木になら、何をされたって構わない。柏木。
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