カリスマ美容師は閉ざされた心に愛をそそぐ

 月?両手にビニール袋を下げて、冷たい風のなか、仕事帰りの急ぎ足のサラリーマン達の隙間をぬって、流され無いように必死に歩いている。


 俺は早足で「月」と声をかける。


 「辻本さん…」と少しビックリしたような顔をみせて。


 「何処へ?」


 「この先の交番へ配達の途中なんです。」


 一緒に行こうと俺は遠慮する月から、無理やり袋を奪い取り、彼女の隣をゆっくり歩く。


 一人で大丈夫ですよ、と繰り返し言ってくるが俺は聞くつもりなんてない。


 変な男に声をかけられたらどうする?私に声をかける男性なんていませんよ、なんて危機感も無い。


 俺が心配何だよ!




 

 ◇さっきから辻本さんの顔を沢山の女性達がチラチラと振り返っていく。


 その隣を歩く私にもちょっと冷たい視線を向ける女性も。私は辻本さんに聴こえないように、ため息を吐き出す。


 彼は目立って当たり前だ、モデルのような身長と体型に甘い顔。男性なのにまつ毛が長くパッチリ二重。


 黒髪だけどスッキリしている。


 そんな素敵な男性の隣を私のような地味女が歩いていたら、女性達は納得しないだろう。


 私は仕事用のベージュの帽子に、油の染みのついた同じ色のエプロン姿。


 

 隣を歩くのが嫌で距離を取ろうとすると、「月」どうした?と声を掛けてくる。


 店から立ったの3分なのに、10分にも20分にも長く感じられ……。


 女性から向けられる視線が嫌で帽子を深く被り、少し俯き加減で歩く。


 女性の視線なんて、全然気にしない彼、歩く姿は堂々としている。やっぱり凄いな…。


 この街が似合う人


 でも、どうして辻本さんは伯母さんの前で、彼氏の振りなんてしてくれたのだろう。



 お見合いのことで、困っていた所だったから、助けて貰えて感謝しているけれど……。


 辻本さんは私の彼氏では無いのに…


 彼の隣に相応しい人は、やっぱり同じ業界かモデル、頭が良くて素敵な人なんだろうなぁー。


 お客様でなかったら、出逢いなんて無かった人…。


 それでも…

 

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