カリスマ美容師は閉ざされた心に愛をそそぐ
あの時は困っていた私を助けてくれただけ。それだけ。
きっと優しい人なんだろう。
だって見てしまったから。
人口の多いこの街で、満員電車の中神様のイタズラなのか、ふっと何気なく視線を上げたその先に、ドアの前で立つ二人。
その場所だけ、まるで別世界のような二人を、取り巻く空気さえ光りのように見える。
どうして…?
私は恥ずかしくて気づかれたくない、そんな気持ちから呼吸を殺し膝の上に拳を作り、ジット下を見つめる。
私が、私だけが灰色の世界の人間のように思えてくる。
いつになっても光りのこの街に馴染めない私。
でも彼女は違う。この街に似合う人。
辻本さんと並んでも、違和感の無い女性。
二人並んで楽しそうな笑顔をしていた。
あれは特別な人にだけ向ける表情だと思う。それくらいは私でも分かる。
きっと彼女。
とってもキレイな女性。
身長も高く、細くて、色の白い美人。
男性なら誰もが彼女にしたいと思うだろう。それくらい見ていて素敵な人だった。
147センチしかない私では、チビすぎて釣り合いなんて取れないもんね。
なんで一瞬でも私は勘違いをしてしまったのだろう。
優しさとは、ときに残酷…
光りの世界にいる二人が、眩しく、そして切なく私の心には冷たい風。
大切な人が隣にいるってそれだけで幸せだよね。そしてそれだけで自然と心が温かくなってくる。
どんなに寒くても…。心の中にコートは必要ない。
私だって、幸せな時があったのに、そう思うと涙が溢れそうになる。
何枚も服を重ねても私の心は温まらない。
元気が出る音楽、恋愛小説、マフラー、手袋、何をしても身体中が冷えてくる。
心に直接カイロを貼れたらいいのにね、そしたら身体中がホカホカになって、もう一人でも大丈夫だって思えるようになれるのに。
人のぬくもりがなくても大丈夫、寂しくない。
そんな強さが欲しい。