カリスマ美容師は閉ざされた心に愛をそそぐ
「とのちゃん、辻本さんを私の代わりにお見送りしてお願いネ」
とのちゃんは首をブルルと振りながら、首輪の鈴をならし、ドアまで歩いて行く。
最後まで顔を上げることなく“おやすみなさい”と布団の中へ潜り込む。
辻本さんは“ゆっくり休んで”と言ってそっと部屋を出ていった。
お互い何も会話も出来ないまま。
外に出て見れば強い風の中に、微かに雪が舞っている。まるで小さな花びらのようにヒラヒラと、あっという間に暗闇に溶け消えていく。
なんだか切なさが込み上げてきた。
俺の思いは月に届くのだろうか?粉雪と一緒に俺の気持ちも暗闇に飲み込まれそうだ。