カリスマ美容師は閉ざされた心に愛をそそぐ
目の前の子犬のような生き物はなんだ。この寒い中、ため息を何度も何度も繰り返し、頭を左右に振ったり閉店作業なんて、全然進んでいない!
それよりも “俺” という存在に全く気付かない。またしてもだ!
あ〜も〜、訳わかんない感情で支配される。何だか段々と腹が立ってきたぁー
何で気付かない!ため息ばっかり!
俺は駆け寄り彼女の帽子を取り上げ、頭をワシャワシャと撫で始めた。
月は何をされているのか分けも分からず、時々肩を震わせながら、俺のされるがまま。
時々小さな悲鳴を上げる。
「何で俺に気づかない!」
俺の声にやっと反応したかたと思ったら。
キョトンとした顔で「美容師さん?」
美容師さん?って何だよ!名前を覚えられてない…名刺を渡したにもかかわらず。はぁぁぁ……。
それに下から目線のくりっとした、子犬見たいな顔!
やめろ!!
あ〜〜、その顔、他の男に見せるなー!!
「あら、楽しそう!」
うん!
「お邪魔だったかしら〜〜、月ちゃんたらいつの間にこんなイケメン彼氏が、もうー黙っているなんて酷いわ〜、でも良かった、これでお見合いは無しね」
“見合い”!どういうことだ!
ため息をしてたのは…もしかして。
「良かったら、今から夕食なのよ一緒にどうぞ」ふふふっ。
月の母親か?嫌われてはいないらしい。彼氏と勘違いされたけど、こっちとしては好都合!
俺の中の何かが “月” を意識し始めた。