月の砂漠でプロポーズ
 施術室は、海が見える吹き抜けのような場所だった。
 開放的な空間に、施術ベッドが二つ。
 そのうちの一つに諒さんが寝そべっていた。

「也実」

 微笑みながら、おいでとばかりに手を伸ばしてくる諒さん。
 彼は腰のあたりをタオルで隠しているだけ。
 穏やかだった心臓が乱打し始まる。

 か、カップルでスパってかなり悩ましいよねっ?
 と思ってしまったのは私だけでしょうか。

 見えないようにタオルやエステティシャンの体で巧みに隠されているとはいえ。
 全裸の二人が、手を伸ばせば触れられる位置に寝そべっているなんて、親密な関係だと勘違いされるよー!……と思うのは、私だけ?

 友人なり恋人なりの距離だよね、これって。
 雇用主と雇われ人の距離としてはおかしいのではないだろうか。

 確かに名目上は結婚したばかりのハネムーナーなんですが、実際は見合いクラッシャーなわけで。
 諒さんの見合いは既に日本で壊れたようだし、言ってみれば私はなんのためにここにいるのだろう?
 と思うあいまもスパメニューは進んでいく。

「~☆φ♪」

 一流ホテルの一流エステティシャンのゴッドハンドに解されて、とろとろなところに私を担当してくれているスタッフに話しかけられた。

 半分寝ているのと外国語なので、聞き取れなかった。

「彼女が也実の肌はすべすべで素晴らしいって言ってるよ」

 諒さんが訳してくれた。

「俺も味わいたいな」

 なにを……?
 ああ、温かくて柔らかい睡魔に引きずり込まれていく……。
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