月の砂漠でプロポーズ
「ディナーを食べ損ねたな」

 腕枕をしてくれながら、諒さんがいう。
 時計は現地時間で二十二時を回っているけれど、まだまだ外は活気に満ちているようだ。

 ……私がベッドで眼が醒めてから六時間も経っていたのか。
 その間の記憶は朦朧だったり激しかったり、……けふんけふん。

「そういえば私、スパから自分で歩いた記憶がないのですが」

「俺が運んだ」

「え、まさかお姫様抱っこで?」

「訳ないだろう。荷物カートでだ」

「えー……そこは嘘でも、『俺が抱いた』って言いましょうよ」

「当たり前だろう」

 諒さんが上半身を起こして、覗き込んできた。

「花嫁を抱えて新居に入るってしきたりにずっと憧れていたんだから」

 真剣に言われると照れる。
 ので、毛布の中に潜り込んでかつ彼の胸に顔を伏せた。

「コイツ! 俺にこんな恥ずかしいことを言わせたくせに隠れるか」

「自白したのは諒さんだもんー」

 毛布を引き剥がされそうになり、私は彼の胸に必死にしがみついた。
 とくとくと脈うつ心臓。
 汗に濡れた肌。
 体臭と混じり合ったコロンの匂い。
 すべてが嬉しくて幸せで、くらりとめまいがするほど私を誘惑してくる。
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