月の砂漠でプロポーズ
「一応、腕や足が見えない服は用意してきたんですけれど」

「女性は髪を隠さなければならないからな。入口でアバヤを借りれる。コンシェルジュに聞いたんだが、ツアーに参加しないと内部が見れないらしい」

「参加で!」

 私の即決に諒さんが笑った。

「あっさり覆したな」

「私はいつも天秤の女神の言いなりです」

 澄まして言った。

「というと?」

「主義主張と、便宜の間でいったりきたりしてるんです」

「なるほど」

 くつくつ……と諒さんが楽しそうに笑う。
 この人、こんな風に笑う人だったんだ。

「どうした? 眩しそうな顔をしている」

 気掛かりそうに諒さんが手を伸ばしてきた。
 頬に添えられた手が嬉しい。そっと唇を寄せる。

「こら」

 焦った様子の諒さんが可愛い。

「おいたをするなよ? ベッドから動けなくしてやるぞ」

 脅かされた。

 獰猛な目の彼は半ば本気で、私も半分くらいいいなと思ったけれどナイショ。
 だって、観光スケジュールが消化できないもの。
< 112 / 127 >

この作品をシェア

pagetop