月の砂漠でプロポーズ
ようやくツアー開始となり、助かった。
 礼拝所ではイスラム教の習慣やUAEの文化などを教えてくれる。

「……随分、親切なんですね」

 小声で諒さんにつぶやいたら、異文化間の壁を取り去ることを目的としたプログラムの一環だと、耳元でささやきながら教えてくれた。

 ……あの。
 旦那様の掠れたような低い声に、ぞくっとなった不埒な妻は私です。

 ツアーが終わり、自由解散。
 シャンデリアが煌々と輝いている。
 じっと天井を見上げると、宇宙に抱かれるような気持ちになる。
 このモスクが建てられたとき、空はもっと近しいものだったんだろうな。

 首を上に向けたままの私を、諒さんはずっと待っていてくれていた。

「敬虔な気持ちになれたよ」

「うん、私も! 各国語で記載されたコーランも興味深かったです」

 私自身は無宗教というか、八百万の神様万物に宿る系なのだけれど、他民族の真摯な信仰を知るのは大事な時間だとも思う。
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