月の砂漠でプロポーズ
「旅をしたかったんだ。旅をしながら仕事が出来ないかと考えた結果なんだ」

 私と同じだ。
 それで弁護士というのが、頭の良さなんだろうな。

「ご両親には反対されなかったの?」

「むしろ面白がっていたよ。爺様も『海を渡るを体言する、それでこそ渡海の男だ』と絶賛してくれてね。……親戚は喜んでいたよ。爺様の遺産の取り分が増えるって」

 お、おう。それはまた生々しい……。
 私が痛ましげな目付きをしていたせいだろうか、諒さんはぱちりと綺麗なウインクをしてみせてくれた。

「それを見越してか、爺様が『生前贈与ビンゴ』という催しをしてくれてね」

 はい?

「ビンゴになった奴に景品をくれるんだ。爺様の愛した世界に五台しかないコンバーチブルとか」

 ちょっと待って。景品が凄すぎない?

「従兄はホテルチェーンのCEOなんだけど、彼がビンゴに当たったときはホテル一個もらっていた」

「へー。ホテルの居住権」

 太っ腹弁護士のお爺様はやっぱり太っ腹だった。
 くすりと諒さんが笑った。

「正しい表現をすれば『ホテル一棟』かな」

…………あ、あいた口がふさがらない。

「俺は根無し草だから。あのマンションをもらったんだ」

 もらったのね。って、そこではなくて。

「諒さん、そんなに日本に居つかなかったの?」

 なにか理由があったのだろうか。
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