月の砂漠でプロポーズ
「いいや。まだ見ていない場所への欲求が強いだけだ」

 そっか。
 彼は日本に居つかなくてもいいほどに、世界中に仕事を持っているんだ。

「名所を見るだけではなく、その国の風というか、どうしようもなく空気を感じたいというか……」

 諒さんが、いつも私が思っていることを呟いたので、思わず彼に詰め寄った。

「同じです! 一瞬でも、その国に溶け込みたいというか」

 私の言葉に諒さんも目を瞠った。

「それも同じ。……観光客の思い込みに過ぎないんだが」
「わかります」

 私達は同化したつもりでも、現地の人には明確に異邦人なのだろう。

 ふと。
『渡海グループの一員になることに不安はないか』という諒さんの問はそれと同じなのかもしれないと思った。
 馴染んだつもりでも、一族からすれば、いつまでも異邦人。

 旅と違うのは、私は諒さんに根を下ろしたのだ。
 彼のルーツが渡海だというのなら、馴染める努力をしたいと思う。

 ほら、『雑草は踏まれても死なない』って奴。
 私はタフでしなやかに渡海という土に根を張って見せる。
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