月の砂漠でプロポーズ
 モスクに行って被布の意味を教えられてから自分でも調べてみた。
 イスラム女性にとっておしゃれは家のなかでするもの。
 美しさは自分を愛し、大事にしてくれる旦那様だけにみせるもの。
 イスラム女性の場合、未婚の女子より既婚女性のほうがおしゃれなのだと。
 そしてベッドの中ではセクシーランジェリーだけを身に着けるのだと。

 こっそりと忍ばせてきたランジェリー、今日身に着けないで、いつ着るというのだ。

「女は度胸!」

 なにか違うと思いながら、身に着けドレスを着こんだ。
 初日にプレゼントされた金の腕輪や指輪も身に着ける。

 メイクをきちんとした。

 やがて出てきた諒さんが私を見て目を瞠った。
 腰を抱き寄せられ、手を彼の唇まで持ち上げられた。

「今日の君はいつもより美しい」

 私の目を見つめたまま、手の甲に口づけてくる。
 諒さんは同じく金糸の刺繍をされた白い服を身に着けた。
 彼に誘導されて歩いていくと、砂丘がシルエットに見えるところに、松明で輝く場所がある。
 見れば、テーブルがしつらえられていた。
 席につくと、諒さんがグラスを掲げた。

「二人の未来に乾杯」
「乾杯」

 唱和してグラスに口を付ける。
 お喋りしながら、お料理に舌鼓を打っているのに、まるて味がわからない。
 食べ終わると同時に松明がふっと消えた。
 それなのに、随分と明るい。月がのぼってきたのだ。

「也実」

 気がつけば、テーブルの反対側に座っていた諒さんが私の傍に立っていた。
 促されて席を立つ。
暫く歩いて、やがて立ち止まった。

 「也実。君を愛している。僕の妻になって欲しい」
 私を見つめる彼の瞳の中に星と一緒に私が映っている。

「はい」
 諒さんが私の左手を取ると、冷たいものが薬指の根元まで通った。

 オパールとダイヤをぐるりと花のようにつなげた意匠。
 輪の部分は、今嵌めている指輪と同じデザインだった。

「俺は根無し草だったけれど、也実にたどり着いた。君の体温を感じて眠り、君の笑顔で朝を迎えたい。何処の国のベッドでも、一生」

「私も、貴方という大地に根を下ろしたの。どんな風に吹かれても、一生ついていく」

「約束だ」
「ええ」

 月に照らされた私達の影はくっついたまま、長く伸びていた。
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