月の砂漠でプロポーズ
私を観察していたのかどうかよくわからないけれど、渡会さんが宣言をした。

「決まりだな、車を回してくるから裏口に案内してやってくれ」

「僕も調書まとめないといけないんですけど」

 刑事さんが苦笑しなら渡会さんに言った。

「重要参考人を保護するのも警察の大事な仕事だろう?」

 その間に、渡会さんは部屋から出てドアを閉めてしまい、完全に姿が見えなくなった。

「今の弁護士の渡会さんて人。押収した林の卒業アルバムに彼も載ってたので、被害に遭った男性陣や林と学校の同期らしいですよ」

 じゃあ本当は彼が信じたいのは林なのかな。
 ついでに感が否めなかったのは、そういうこと。

 いいや、どんな悪手だって渡会さんの手に縋るしかないんだ。

 差し当たっては。

「刑事さん、少しドアの外で見張っててください。着替えたいんです」

 返事の代わりに刑事さんは出ていってくれた。

 ちらりと部屋の中にかかっている鏡を見る。
 ドラマだと、マジックミラーになってたりするんだよね。
 あいにく自信がないのでストリップを見せるつもりはない。

 私はトランクの中からゆったりとしたチュニックワンピースを取り出し、頭から被った。
 テント代わりにして、その下でさっきまで着ていたものを脱いでいく。
 着ていたものをしまって、トランクに被せてあったトランクカバーも一緒にたたむ。

 お団子にしていた髪をおろし、眼鏡を外してコンタクトをつける。
 化粧して、ドバイ用に買ったミュールに履き替えた。
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