月の砂漠でプロポーズ
ドレッシーな洋服セットを入れておいてよかった。 ドバイのレストランはドレスコードがあるのだ。
 髪に手を入れて掻きあげれば、お団子にしていた癖もついてて、ふわりと波打つ。

 準備が完了してコツコツとドアを部屋の中からノックすれば刑事さんがドアを開け、さっき渡会さんを見た私みたいに固まった。

「……女って信用できない……」

 なにおう。
 ぼそっとつぶやいたつもりだろうけど、聞こえたからね。
 化ける粧いは女性の武器ですよ。

 そして女の敵は女。
 さっきの女性達が小細工に騙されてくれて、私だとわかりませんように。

 祈る想いで裏口へ行く。
 私は周囲を確認したけれど、女の人達はいなかった。

 ほっとして、渡会さんが乗り込んでいた車の窓ガラスをたたくと、なぜか彼も固まった。

 化けた私は、女性を通り越して妖怪にでもなっていたのだろうか。
 旅先でも、一流ホテルや劇場じゃないとひらひらした服を着ない。
 着慣れてない感を自分でも感じるから、『馬子にも衣装』すら失敗したのかな。

 車が発進してから渡会さんに聞いてみた。

「私、取り調べ室と今ではそんなに違います?」

「女性の素顔は見たことがない」

 おやおや。
 モテメン間違いなしのくせに、本気の恋をしたことがないと見た。
 女はね、好きな男の腕の中ならありのままを見せられるんですよ。
 モテ道をひたはしる弁護士さんもまだまだですねー。

 ……なぁんて、偉そうな感想は彼の『自宅』へ連れていかれてふっとんだ。
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