月の砂漠でプロポーズ
「っ」

 トンネルを開けたら……ではなくて、エレベーターの扉が開いた瞬間、別世界が拡がっていた。

 私だってセレブ御用達のハウスクリーニング業だ。豪壮なお宅も、瀟洒なマンションも免疫が出来ていたはず、だったのに。

 息をのむしか出来ない。
 酸欠だった脳みそはようやくカタカナのロ、みたいな建物と理解した。
 吹き抜けの為、内廊下の筈なのに明るい。回廊みたいな感じ。

 そこかしこに生花が高級そうな花瓶に活けられ、彫刻や絵画がさりげなく置かれている。
 広い割にはドアが異様に少ない。

「各フロア、三世帯かな。俺の家は二階の北棟。一番安い部屋だから、そこまで緊張しなくていい」

 いやいや。一番安くても(自主規制)

「一階はフロントと、医務室。それとコンシェルジュが常駐している。あとは看護婦資格を持ったナニーが常駐している保育室とコミュニティスペースだったかな」

 ………………このレジデンス。億ションのなかでも、ハイクオリティでしょう……。
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