月の砂漠でプロポーズ
私が呆然としているうちに、渡会さんはフロアに三つしかないというドアの一つにカードキーをあてた。
 ぱっと、電気がつく。

「うわ……!」

 玄関がすでに私の部屋くらいある!
 普通のマンションより天井も高い。三メートル以上はあるだろう。

 バリアフリーだけど床の色が変わっているあたりで渡会さんが靴を脱いだので、私も倣う。

 多分、シューズクローゼットなんだろうけど、一番上の棚は私の頭より高い。
 渡会さんが屈んで靴を一番上の棚に置いた。彼なら普通に届くんだ。

 ……なんだろう。
 渡会さんの背中を見て、ドキドキする。
 逞しくて、広い背中。けれどしなやかに動く。

 海外で迷子になったとき案内してくれた現地の人が強面すぎて、『生きて帰れないんじゃないか』と思ったときのドキドキ感より激しい。

 この人は味方じゃない。
 けれど行くあてのない私を家に呼んでくれた。
 わかっている、私が『重要証拠人』だからだ。
 林と私が接触するときか、確認しやすいから。
 そして証拠隠滅しないか、見張りやすいからだ。
< 26 / 127 >

この作品をシェア

pagetop