月の砂漠でプロポーズ
 渡会さんにとっては仕事なのだとわかっているのに、すがりたくなる。
 ……しっかりしろ、私。
 これはいわゆる『吊り橋効果』なんだ。
 ピンチのときに手を差し伸べられて、ドキドキしてるだけよ。

「主寝室以外なら好きに使っていい。客室は左側手前のドアだ。部屋にはシャワールームとトイレ、簡単な洗面所もついてるが、バスルームのほうがくつろげるだろう。ご自由にどうぞ」

 お、おう……。

 トランクを客間に置かせてもらう。
 あのー、客間が普通にあるのも驚きなんですが。
 八畳はあってシャワールームは言うに及ばず、アンティークなベッドに小ぶりなクローゼット、ライティングデスクまである。

「空気清浄機や加湿器が欲しいなら、クローゼットのなかに入ってる」

 おまけにインターネット設備、簡易的だけれどキッチンには冷蔵庫に電子レンジとか、一口コンロまである!
 この部屋はホテルですか?

「人に会いたくないだろう。自重トレーニング限定にはなるが、簡単な運動なら隣の部屋でも出来る」

 見せてくれたけれど、バイクとか懸垂機とか、ベンチ? 
 た、たしかに簡単なものかもしれないけど、自室にここまで揃える?

「……ここまででお腹一杯なんですけれど」

「そうか? 他の家だってこんなものだろう?」

 私、基本的にクライアントがいるときに仕事してないから、こんなにお金持ちと自分に意識の違いがあるなんて思ってもみなかった。
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