月の砂漠でプロポーズ
「ここは気の置けない友人や従兄が遊びにくる」

 言い方がなんだか、小学生が秘密基地を自慢するような感じだった。
 くす、と笑ってしまったのが聞こえたらしい。

「なんだ?」

「なんでもないです」

 が。
 一瞬芽生えた余裕は、窓からの景色に蒸発した。
 さっき、見えたヒルズのビルとショッピングモールが見える!

 レジデンス、と渡会さんは言ってたし、私もしっかりと聞いていた。
 けれど、この距離感はどう考えても、ヒルズレジデンスでしかない!

 こんなところ、弁護士とはいえ一般の人が買えるの?
 しかも、ここ事務所兼用ですらない。
 ぴら、と見せられた名刺には彼の個人事務所が明記されていたから、オフィスを自分で持っていることになる。

「あ、あなた何者……っ?」

 もしかしたら、そんじょそこらのセレブじゃないのでは。

「渡会 諒。国を跨ぐ法務を扱う弁護士」

 からかうような声に、じとんと見つめ返す。

「弁護士って、こんなに儲かる職業なんですか?」

 それだけで、ヒルズに住めるのだろうか。

「どんな仕事だって、やりようによっては稼げるだろ」

 ……たしかに。

「しばらく、この家のハウスキープをしてくれ。多くはないだろうが給料も払う」
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