月の砂漠でプロポーズ
『也美の生き方は正直羨ましい。けれど真似はできない』

『君は前世、キリギリスだったんだね。冬になってからアリに助けを乞うても遅いよ』

 ……だよね。私もそう思う。
 たしかに、これからの人生を考えると不安になる。
 一生、短期バイトなんて不安定すぎるもの。


 ハウスクリーニング業としてそれなりにキャリアを積み重ねてきたから、長期間での契約でという申込は結構ある。

 が、短期で稼げるものに固執してきた。
 けれど、年々就職先をみつけることが厳しくなってきている。

「前の会社では面接官に『遊んでいられて優雅な御身分ですね。海外に行かれたことは、貴女のどんなキャリアになっているのですか』って思いきり聞かれたしな……」

 でも、旅をする衝動を止められない。
 いっそ海外に移住したほうがいいのだろうか。
 国際免許取れば車でちょこちょこ近場を移動できるし。
 長期休みにも理解ありそうだから、せっかく手にいれた仕事を手放さずに済むかもしれない。

「旅を活かした仕事があればと思うけど」

 CAやバスガイド、客船のスタッフ応募は何回かしているけれど、書類で落とされた。

「旅行ライターは文才ないし、ツアコンって柄でもないし」

 旅行したい友達の相談に乗るのは楽しい。
 でも、パックツアーのお世話係は向いてない。
 私の旅はフリープランが信条だからだ。
 勿論、下調べは十分にする。
 それでもアクシデントやトラブルが起こる。
 一人なら『これも旅の醍醐味よね』って無理矢理楽しむことにしているけれど、他人に命やお金や時間を預かっていたら、そうは出来ない。

「ムシがいいのわかっているけど、旅に理解ある雇用主っていないかなあ……」

 ワークシェアリングとか、日本ならないかな。
 あるいは欧米並みにロングバケーションをGWや盆暮以外に取れるようになるとか。

 ……ふう。
 息を吐き出した。
 やめよ。
 旅のあとのことは、帰国の飛行機のなかで考えればいい。
 無理矢理頭を切り替える。
 うん、ワクワクしてきた。
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