月の砂漠でプロポーズ
「あの。TOKAIヒルズって、渡海グループの持ち物ですよね?」

 冗談だと言って。

「ああ。爺様が本家の土地を一部手放して再開発させたんだ。自分は別宅に移り住んでな」

「は?」

 ありえないワードがいくつも散りばめられていましたがっ?
 空耳、そう聞き間違えだ。

「俺の苗字って『とかい』とも読めるだろう? 『海を渡ってみせる!』という初代の意気込みで渡海グループと名付けたんだそうだ」

 私の開いた口がふさがらないのをどうとったのか、渡会さんは肩を竦めてみせた。

「ま。単なる当て字だな」

 色男がすると、そんなポーズもさまになるのだ。ではなくて!

 ひょっとして。
 いや、もしかしなくてもスルーしたほうがいいかも案件?
 …………うん、聞かなかったことにしよう。
宅内の掃除して秘密を見てしまっても、プライベートをほじくるべからずだ。

 心底怯えた顔をしたら、ふ、と柔らかい表情になった。
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