月の砂漠でプロポーズ
 ふいに渡会さんが真面目な表情になった。

「君の預貯金は制限をかけられている可能性がある」
「!」

 私が犯罪者かもしれないから。
 顔色が変わってしまったであろう私に、渡会さんは茶化すような調子で言う。

「ある程度は構わないが。制限なしだからって、見境なしに使うなよ」

 私は詐欺の片棒を担いでいない。
 容疑はいずれ晴れる。
 息を吸い込んだ。

「使いませんよ。都度、明細を送ります」

「頼む」

 ……しかし。
 あらためて考えると、渡会さんは高収入、高身長、おそらく高学歴である。
 しかも見ず知らずの、犯罪者かもしれない女に思うところはあるにせよ、手を差し伸べてくれる人だ。

 こんなハイスペックイケメンと同居って、私の心臓がもつのだろうか。

 別にね、渡会さんは私のこと恋愛対象どころか、同じ星の人間と認識してないのかもしれないけれど。
 これだけ広ければ、湯上り姿とか下着を互いに目にすることはない。
 かなり残念、いや安心できる喜ばしいことなんだけれど。
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