月の砂漠でプロポーズ
 数日後とうとう、同じ型のハンコを見つけたと渡会さんからメールをもらった。
 嬉しい。
 私には暗闇のなかに差し込んだ一筋の光みたいに貴重な出来事だった。
 今度は系列店へ行って防犯カメラの洗い出しだという。

「うわあ……」

 途方もない仕事だった。
 系列店は何店舗あるのだろう。
 林はいつから、結婚詐欺を考えていたのだろう。

『どこかに記録は残っているものだ』
 渡会さんは言うけれど。
 プールの中にあるとわかっていても、コンタクトを探すのは困難を極まる。
 渡会さんがしようとしてくれていることはそんなことだと感じた。

「無理しないでください」

『弁護士は基本、クライアントの味方だ』
 返ってきた、にべもない言葉に心が切り裂かれそうになる。

『だが、誤認逮捕や冤罪を作りだすべきではないと思っている』

 彼が私の無罪を信じてくれていないにしても、涙が出るほどうれしかった。
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