月の砂漠でプロポーズ
林はバイトでハウスクリーニングをしながら、セレブの家の掃除を思いついたという。
 同窓会に出たときに、皆と名刺交換をして彼らの部屋を掃除する契約を取り付けた。
 しばらくは自分で掃除していたが。

『虚しくなってしまったんです。働いても働いても奨学金を返済するので精一杯。なのに、同級生達はセレブらしく贅沢な暮しをしている』

 自分も少しくらい夢を見てもいいのではないかと思ったそうだ。

 マッチングアプリで知り合った女性に、顧客である同級生の名前を名乗り、彼らの部屋に連れていき信用させた。

『そのうち、デート費用に困るようになってしまって』
 ステータスのある男性を演じるうち、苦しかったお財布がさらに困窮し、思いついたのが。

「異母妹がハウスクリーニング社を立ち上げたので、支援してほしいというものだった」

 社長名は妹の内縁の夫で、妹には私の名前を持ち出したのだという。
 林のセレブぶりに心酔した女性達は財布を取り出した。

『俺だって、皆みたいに昔みたいに華やかな暮しをしたかったんだ……!』

 すまないぃぃ……と泣きむせぶ林に警察の目はきっと冷たかったことだろう。
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