月の砂漠でプロポーズ
「ええと」

 パラリーガル。
 渡会さんが言ってた『パラ』のことだ。なんで、私?

「私、法律とかさっぱりですし」

 日本語以外は片言の英語しか喋れないし、困った人に寄り添うようなタイプではないと思う。

「高畑さんは信用できる。俺のカードを悪用していなかったし、収支計算や掃除完了報告書はきちんとしていた」

「でも」

 渡会さんの傍にいたい。
 だから、彼の申し出は嬉しい。

「旅のしおり。高畑さんが作成した、『旅文庫~ドバイ篇~』を見た」

「あ」

 それはいつも、旅の前につくるものだった。
 小学校の頃、遠足のしおり係となり、その面白さにハマった。
 友達と旅行行くときも、私が旅程を考え、しおりを作っては友達に渡していた。
 一人旅をするようになってからでも変わらない。

 飛行機のチケット代、空港税、ガソリン代から始まり、何時間でかかるか。
 国語は何語か。
 風習は、地理は。服装は。
 政治、宗教上の注意点など。

 NETがあるし、調べたい語句を与えればすぐに検索できる。
 けれど、バッテリー切れとか、電波圏外とか電気製品にアクシデントはつきものだから、紙でも携帯するようにしているのだ。

「あれは興味深かった。君の関心に添い、頁を繰るごとに視野が広がっていくのが楽しく、とても詳しかった。思うに高畑さんは『調べる』ということの下地が出来ていると思う」
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