月の砂漠でプロポーズ
「ただ」

 刑事の懸念に、やはり頷き返しておいた。

 刑事専門の弁護士によれば、『詐欺師は刑務所ので更に知恵がつく』という。
 先輩囚人から詐欺の手口を伝授されるからだ。
 初犯である林が出てくるときには凄腕の詐欺師に化けている可能性もあった。

 ……結婚詐欺に関しては、被害者の女性達が告訴するかにかかっている。
 借用書がある以上、林が返済する『意思』を見せれば詐欺そのものがなくなるからだ。

「ただ?」

 高畑さんが俺をみつめてきた。縋るような瞳。理不尽への怒り。

「……なんでもない」 

 ただ。
 女性達が林にひっかかったのは、彼女達が信じ込んでいた男達が実在するからだ。
 医師しかり、パイロットしかり。
 林も会社の社長なのだが、従業員一名のみの会社と知れば、さらに怒りが増す可能性がある。

 それに九十パーセントくらいは高畑さんを信じていたけれど、どんでん返しを想定していなければならない。
 俺の仕事はクライアントの正義を勝ち取ることだ。
 弁護士は騙されてはいけない。
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