月の砂漠でプロポーズ
「しかし、高畑さんには騙された……」 

 裏口に出てきた彼女はまるで別人だった。

 パンツスタイルの女性はきびきびしていて好ましいと思っていたくせに、ワンピースを優雅に着こなしている彼女に見惚れた。

『この人は、必要がないときに女性性を出さないんだ』という認識は衝撃だった。
 俺に近寄ってくる女性は女を武器にする人がほとんどだったからだ。

 仕事で知り合い、時間を共有するうちに愛されたいと願っている眼差しを向ける人がほどんとだった。
 仕事以外の思惑に気づくとげんなりしてしまう。
 あるいは、俺のバックボーンに惹かれて、誘惑しようとする態度に辟易していた。

 なのに、彼女は出会いがしらに俺に見惚れた以上はアクションを起こさなかった。
 媚びもしない態度に、艶めかしい感情を持たない人だと思い込んでいたのに。

『渡会さん?』

『……なぜ、着替えを?』

 声が掠れる。

『一応、変装です』

 高畑さんはあっけらかんとのたまった。

『は?』

 俺に女性であることをアピールしようとしていたのではないのか。
 自分の自意識過剰ぶりが恥ずかしい。
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