月の砂漠でプロポーズ
 詐欺の片棒を担いだかもしれない彼女。
 あるいは雇用主に騙され、いわれのない罪を線られて傷ついているだろう彼女を、俺が襲っていい理由は一つもない。

 重要参考人なのだ。私情を傾けていい相手ではない。

 自宅を、高畑さんが掃除のプロとしてチェックしているうちに徐々に衝動が納まっていく。

 彼女にハウスキーパーをしてもらおう。
 そして、高畑さんと顔を合わせなければいい。

 俺に連絡するな、外に出るなと言い置いて自宅から逃げ出した。
 友人や従兄しか入ったことのない空間に、彼女がいるだけで苦しい。

「彼女が本当に『シロ』かを試す実証実験だ」

 ……言い訳を真実にするために、俺のカードを預けた高畑さんがどういう動きをするのか。
 レジデンスの警備を受け持っている会社にも彼女の動向を逐一連絡するように指示を出しておいた。
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