月の砂漠でプロポーズ
 数日のあいだ、高畑さんの為に足を棒にしながら、幾度も携帯を確認した。
 けれど、彼女は『連絡してこないでくれ』と俺が言ったからか、律儀にメールも電話も寄越さない。 
 自分で言ったのに、腹立だしい気持ちになった。

 警備会社に確認したら高畑さんへの訪問客もない。『外に出るな』という俺の指示を守って、彼女自身が玄関に姿を現すのも宅配の受け取りのみ。

 カード明細を確認すれば、調理器具、食材、掃除用具のみで自分の服すら購入した履歴が見られなかった。

 旅が好きな彼女を部屋に軟禁まがいに閉じ込めて、鬱屈していないだろうか。
 心配になってメールしてみたら。

『渡会さんのお部屋、センスがよくて広くて掃除のし甲斐があります!』
『たまに本やCD、映画のDVD借りてます。興味深いものがあって楽しいです』

 嘘でもなく、強がりにも感じられなかった。

『渡会さんの本読んで頭の中で旅行してます』

 ドキンとなった。
 なぜ、彼女が俺と同じことを想っているのだろう。
 胸の鼓動を持て余しながら読みすすめていく。

『あとバイクも! あらためて運動することなかったんですけど。自分にこんな引き籠りの才能があるなんて、新発見でした!』

 笑ってしまった。
 生き生きとした彼女の様子に、体の奥にやわらかい光が灯された気がする。
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