月の砂漠でプロポーズ
 ……それにしても。

「自宅に連れ込んだときに、さりげなく渡海グループに連なる者だと言っておいたのに、媚びを売ってもこない。ここまで徹底的にアピールされないと寂しくなる。……俺は我儘だな」

 男心は複雑だと思い知る。

 彼女が元気に楽しげに暮しているとわかれば、俺からは進捗を報告するときしか連絡できない。

 高畑さんの無実を証明する。
 彼女と遣り取りしたい。
 目的が増えた。

 彼女からの返信に慌てて飛びつく自分に苦笑する。
 高畑さんの文面は短いながら俺への気遣いに満ちている。
 合間に『今日はリビングの部屋のエアコンを掃除した』という報告が記載されていた。
 詳細かつ技術的な内容に職人気質なのだと思う。

 ……思い立って、彼女のクライアントであった同級生達に高畑さんの評判を訊いてみた。

 彼女の仕事ぶりについては概ね好評で、林に対しての苛立ちを高畑さんにぶつけているだけなのがわかった。
 彼らに高畑さんは無実なのだと言いたい。
 だが、立証してからだ。
 俺のクライアントは彼らで、高畑さんではない。
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