月の砂漠でプロポーズ
 デレは、さらに具合悪くなったみたいな渡会さんを見て、吹っ飛んだ。

 買ってきたものから、体温計を取り出し口に含ませた。ピピ、と電子音が鳴ったので熱を見る。

「三十九度一分……」

 おでこに保冷剤を貼る。

「ふう……」

 あとは渡会さんが起きたときに、食欲があればスポドリやおじやなどを口にしてもらうように用意した。
 オフィスにヤカンや電子レンジ、浄水器や冷蔵庫があってよかったと思おう。

 なければ、渡会邸から持ってくるだけだ。
 ほんと、職住近接って便利。
 社畜の温床にもなりえるけれど、具合の悪いときや道具がオフィスに揃ってないときはすぐに自宅から持ってこれる。
 諸刃の刃だ。

「おじやは……来客用のカップに入れさせてもらおうかな……」

 綺麗な寄木細工の床に傷がつかないように気をつけながら、ローテーブルをサイドテーブル代わりに寝ている渡会さんに近づける。

 ドアに鍵を閉める前に、『予約の方以外の入室をお断りします』の札を見つけたのでかけておく。

 そっと、渡会さんの顔が見えるあたりにひざまづいた。

 髪をかきあげ、熱で赤い顔を見つめる。おでこには冷却剤を貼ってあるけれど、せめてと頬にも手をあてた。
 冷たくて気持ちいいのか、頬を手に摺り寄せてくる。
 胸がぎゅっと痛い。

「無理しないでね?」

 なんでだろう。貴方の辛そうな顔を見ていると私が苦しい。
< 72 / 127 >

この作品をシェア

pagetop