月の砂漠でプロポーズ
「ン……」

 渡会さんから反応があった。

「渡会さんっ、大丈夫ですか!」
「俺、は……」

 声が掠れている。
 熱があるとき独特のけだるさにどきんとしてしまった自分を叱る。

「熱出して倒れました。ここ、養生するにはいい場所ではないので、彼女さんに迎えに来てもらえばどうでしょう」

 提案しながら、行かないでと願ってしまう。

「……彼女なんて、……いない……」

 心が轟いた。
 いないの? 嬉し過ぎる。
 じゃあ、『潜り込める寝床』ってどこ? も、もしや恋人さんは男性なのだろうか。

「渡会さん、どこで寝泊りしてるんですか」
「ここ……」

 苦しそうに呻く。

「え。なんで」

 ここ、ソファしかないよね? なんでそんな嘘ついたの。

「也実は怖い想いをしただろう……。そんな相手と、一つ屋根の下に過ごすのは失礼だ」

 私のせい? 潜り込むあてなんてないのに、私が気詰まりにならないように?

 優しすぎるよ。紳士ってかくあるべきなんだろうけど、メロメロになっちゃうよ……。

「渡会さん、人が良すぎます」

「別に、全方位に向けて親切な訳じゃない……」

 もうっ!
 そんなこと言っちゃうと私、全力で期待しちゃうでしょう?

 これだから無自覚(心も)イケ(てる)メン(Man)ってやつは!
< 73 / 127 >

この作品をシェア

pagetop