月の砂漠でプロポーズ
「おじや、食べれますか?」

 どうしよう。
 うん、とうなずく渡会さんが可愛くて愛おしくてたまらない。

 熱をもった頬をぺちぺちと叩きながら、給湯室でおじやをこさえた。

 テーブルまでおじやを運んできたが、起きあがる気力はないらしい。
 申し訳ないけれど、分厚い渡会さんの鞄をクッションの下に入れて上体を斜めに起こした。

 ティースプーンに載せたおじやをふうふう冷ましながら、彼の口まで運ぶ。
 渡会さんは喉も痛いのか、ゆっくりとのみくだす。

 少しずつ、時間をかけておじやを食べてくれた。
 お薬とスポーツドリングを差し出せば喉が渇いていたのだろう、ごくごくと飲んでくれた。
 よかった。

「もうちょっと休んで歩けるようになったら、おうちに帰りますよ?」

 言い聞かせたら、渡会さんが目をゆっくりと開けた。
 潤んでいて、どうしようもなく艶めかしい。

「一緒に……、かえる……?」

 すがるような声に、胸がきゅんきゅんきゅんとうるさい。

「そうですよ、帰るんです。肩を貸しますから」

 二時間くらい眠った渡会さんは三十八度三分まで下がった。
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