月の砂漠でプロポーズ
「私、 バスタキヤ地区も見たくて」

 ドバイの原点と言われる旧市街。
 伝統建築の保護地区でもあって、近未来的なダウンタウンとは対照的だ。

 ふ、と諒さんが私を見て微笑んだ。

 ほつれた髪のかを耳にかけてくれる。そのまま、手は私の頬に添えられたまま。

「也実ならそういうと思った」

 ……本当にこの人は。どうして私のことをわかってくれるのだろう。
 そして、いつから彼は私のことを名前で呼んでいたんだろう。

 諒さんの唇から私の名前が空気に放たれると、耳に届いた瞬間からスパイスティーをのんだときのように、体のなかに熱がともる。
 どうしようもなく、泣きたくなるほどに幸せになってしまう。
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