皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました
 さて、今回の僻地赴任明けの休暇で、よし、と喜んでいたのは実はマーティンだった。いつもは交代任務のためか、ミレーヌをお祭りに連れ出してやることができなかったからだ。両親はいつものごとく、この祭りのために仕事で不在。ミレーヌに淋しい思いをさせていたのではないか、と毎年、気になって気になって仕方がなかった。

 ところがこのとき、ミレーヌは一通の手紙を受け取っていた。差出人は第三騎士隊のエドガー。先日の御礼を兼ねて、建国祭を一緒に、と書いてある。御礼を兼ねて、とは書いてあるけれどこれはデートのお誘いではないのだろうか。

 ――やったわね、ミレーヌ。憧れの隊長とデートよ。

 天の声は冷やかす。ミレーヌはその手紙を何度も読み返し、夢じゃないかしら夢じゃないかしら、と何度も思っていた。そのたびに天の声は、夢ではないわ、と言ってくれた。

 そんな夢見心地の気持ちの中、彼女の部屋に現れたのは熊のような兄だった。

「ミレーヌ。今年はなんと建国祭に休みが取れた。兄さんと一緒に出掛けようではないか」
 それって僻地帰りのただの休暇じゃないの、と思ったけれど、せっかくの休暇にも関わらずミレーヌを誘ってくれる兄の気持ちは、素直に嬉しい。

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