皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました
「いいえ。ただ、こうやってみんながお祭りを楽しめるのも、騎士団があるおかげなんですよね」
 ミレーヌはそこでにっこりと笑う。
「私、お父様やお兄様のように、騎士科を選んでよかった、と思っています」

 ミレーヌが騎士科を選んだきっかけは天の声だったけれど、今ではこの道を選んでよかった、と心から思える。

「そうだな」
 とマーティンは呟くと、ミレーヌとつないでいる右手にギュッと力が入れてしまった。幼い頃から守ってきた妹がいつの間にかこのように強くなって、という思いと、いつかはこの手から離れていってしまうのではないか、という思いと。いろんな思いが複雑に絡み合って。

 二人で歩いていると「ミレーヌ」と声をかけられた。マーティンの名を呼んだわけではないので、恐らくミレーヌの知り合いだろう。
 声の主を探すと、ひらひらと手を振っている女性がいた。髪は短く、背が高い。

「ルネ」とミレーヌも返事をし、空いている方の手でひらひらと手を振った。
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