皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました
 むしろ教科書よりも心配なところは、ミレーヌが騎士団の建物内にある隊長室へ行ってもいいのか、ということ。そして、その書き損じの紙を無事にもらえることができるのか、ということ。

 ――大丈夫よ。今、この時間ならエドガーしかいないから。

 せめてお兄様ならよかったのに、とミレーヌは思ったものの、エドガーでも状況を説明したらその紙をくれるかもしれない。でも、兄の方が数百倍、気は楽だし説明も楽だった。
 仕方ない、エドガーにはなんとなくそれっぽく説明して、書き損じの紙をもらってくるしかないだろう。

「ルネ。ちょっとシャノンをお願いね。私、ちょっと隊長室に行って書き損じの紙をもらってくるから。それで、この教科書の水を吸い取りましょう」

 くるりと彼女たちに背を向けると、その背に声をかけられた。

「ミレーヌ」とルネが彼女の名を呼ぶ。
「どうして、私たちのためにそこまでしてくれるの? 私たちは、その、平民だよ」
 言いづらそうにルネがそれを口にした。

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