悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――
「浅いから溺れる心配はない。水の中で、足を冷やせ」
シルヴァに促され、腫れていない方の脚も一緒に、川の中へと沈めた。
ドレスが濡れてしまわないように、膝までたくし上げる。
さらさらとした川のせせらぎや、鳥の鳴き声が耳に入る。太陽に温められた土や、生い茂る緑の匂いが辺りに香り、なんだか心が和んだ。
(昔から変わらない……シルヴァお兄ちゃんは優しい……)
小さい頃にも、どんくさかったこともあり、よく転んでいた私の手当てをシルヴァがしてくれていたことを思い出す。
(いつも私の心配をしてくれてた。だんまりで、不愛想だけど、すごく優しいのが伝わってくる)
陽の光とともに、なんだか心がぽかぽかと温かくなっていった。
そろそろ水から脚を出そうとした私の膝の下に、シルヴァがおもむろに引き締まった腕を差し入れてくる。
「脚を貸せ」
「――っ!」
生足を異性に触れられることなど、めったにないため、動揺してしまう。
いつも持ち歩いているのだろう白布で私の下腿を包み込むと、彼は水滴をぬぐい始めた。
(は、恥ずかしいっ……!)
ぎゅっと目を瞑る。
布越しに、膝の裏やふくらはぎなどを触れられて恥ずかしくてしょうがない。
「あっ……ん……」
敏感な足の裏を布で拭かれた時に、声が口から漏れ出てしまった。
(変な声が出ちゃった、恥ずかしい……でもすごく、くすぐったいんだもの……)
くすぐったいのになんとか耐えている間に、どうやら水は全て拭きとれたようだった。
「お兄ちゃん、ありがとう」
けれども、なぜか私の脚からシルヴァは離れてくれない。
(どうしたのかしら――?)
その時――。
「きゃっ――」
足指の先に、シルヴァが口づけた。
指の一つ一つに口づけを落としていかれる。
「あっ、お兄……んっ……」
足裏全体が敏感なため、彼の唇が触れるだけで、全身がぴくんぴくんと反応してしまう。
腫れた足首に口づけられた後に優しく持ち上げられ、露わになっているふくらはぎから膝まで口づけを落とされ続ける。
ちゅっと音が立つたびに、身体が反応してしまった。
(なんで、外でこんなことになって……?)
状況についていけない。
そんな中、シルヴァの唇は柔肌を這い続けたのだった。