悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――


「せっかくだから、二人で街並みを散歩しながら向かおう」

 そう言われて、久しぶりに大通りを歩く。
 通りに立ち並ぶようにして植えられた瑞々しい花々が視界に映る。立ち並ぶ商店からは商人たちの掛け声や、客のおしゃべりの声などが聴こえてくる。
 花の香りに交じって、焼き立てのパンの匂いが鼻腔をくすぐってきた。

 人込みに紛れて、孤児院へ向かうことが出来る。

 そう思っていたのだが――。

(身体が大きくて見た目もカッコイイシルヴァお兄ちゃんと一緒だと、こんなに目立つなんて――)

 市民たちから突き刺さるような視線を感じた。
 シルヴァは昔も美少年だったが、身長が低かった分、ここまで目立ってはいなかったように思う。
 時折、民たちはひそひそとうわさ話に興じる声が聴こえた。

(やっぱり、私のことを悪く言っているのかしら……?)

 せっかくシルヴァのおかげで元気になった気がしたのに、また暗澹たる気持ちにさいなまれてしまう。
 すると、彼に肩を抱き寄せられた。

「気にしなくていい。堂々としておけ」

「お兄ちゃん……」

 胸がドキンと跳ねる。

(我ながら現金だわ……偽の夫婦だし、お兄ちゃんからしたら爵位目当てだけど……嘘でも良いから、結婚してもらえてよかった……)

 そうして、こっそり私は微笑んだのだった。


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