悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――
孤児院につくと、子どもたちや院を取り仕切る神父や修道女たちに笑顔で出迎えられた。
(シルヴァお兄ちゃんの言った通りだったわ……)
神父たちも、私に立った悪い噂のことは聞いていたようだ。けれども、私が誰かの恋路を邪魔したり、嫌がらせをしたりする人物であるはずはないと思ってくれていたようだった。
「噂は噂ですよ。ちゃんと見ている人たちは見てくれていますから」
老神父にそう言われ、少しだけ荷が降りたような感覚があった。
一方。シルヴァと私が本当の夫婦になったのだと思い、神父たちが非常に喜んでいたので、それに関しては少なからず罪悪感を抱いてしまう。
修道院の外に出ると、きゃっきゃっと楽しそうに遊ぶ子どもたちの声が聴こえてきた。彼らが駆けまわると庭に埃が立ち、泥や砂利の匂いが立ち込めてくる。
彼らは、鬼ごっこをしたり、何かの設定になりきって遊んだりしており、シルヴァと私はそれに混ざって遊んだ。
(童心に返ったみたいで楽しいわ……)
いつの間にか、子どもたちに囲まれていた。彼らが口々に声をかけてくる。
「怖い顔のお兄ちゃんと、天使みたいなお姉ちゃん、さっき手を繋いでたね、仲良しだね」
「ね~~天使のお姉ちゃん、強面の騎士様と結婚したんだ」
「久しぶりに会ったら、新婚さんになってたね~~」
(天使……?)
自分の評価に少しだけ戸惑う。
そんな私にシルヴァが声をかけてきた。
「神父たちに聞いたが、子どもたちはお前のことを『天使のお姉ちゃん』と呼んでいるそうだ」
「え……?」
(知らなかった……)
「お前の悪い噂を立てているのは貴族の連中だ。それ以外の者たちは、お前がいかに善人で優しい女性か皆分かっている。分かる奴だけ、お前の良さを分かれば良い」
なぜだか、シルヴァが誇らしげにそう伝えてきた。
そうして――。
「お前は悲しかったかもしれないし、何を言ってるんだと思われかねないが――クラーケ候が、お前の良さに気づかないでくれて正直感謝しているぐらいだ――おかげで、今、お前とこうして過ごすことが出来ているわけだから……」
「え――?」
シルヴァの言葉の真意が分からずに戸惑ってしまう。
「さあ、帰ろうか――お前に話したいことがある――」
そうしてまた彼に手をひかれる。
(話したいこと――)
そわそわと落ち着かない気持ちのまま、彼と一緒に孤児院を後にしたのだった。