悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――
第9話 人気の騎士様の正体は、変質者だったんですか?
シルヴァが出て行ってからすぐ、屋敷へ一枚の手紙が届いた。
『忙しいからしばらく帰れない。使用人も年老いているから、戸じまりはしっかり』
端的な文章だったが、彼の優しさを少しだけ感じることが出来るものだ。
シルヴァが出ていった日――。
感情的になってしまったせいで、結局のところ何が本当で何が嘘なのかを知ることは出来なかった。
(シルヴァお兄ちゃんが話したいことがあるって言っていたのに、それも聞くことが出来てない……)
自室でふうっとため息をついていると、屋敷に尋ね人があった。
(もしかして、お兄ちゃんが帰ってきたのかしら……!?)
慌てて玄関へと向かうと、そこにいたのは想像とは違う人物たちだった。
「天使のお姉ちゃん、また遊びに来てくれなくなったから、今度は私たちが遊びに来たよ!」
見ると、孤児院の子どもたちが庭にたくさんいるではないか。
彼らの姿を見ると、自然と心が和む。
リモーネお姉ちゃん、天使のお姉ちゃんと言って、私に声をかけてくる。
「皆、ありがとう」
少しだけ涙ぐんでしまった。
「天使のお姉ちゃん、目がはれてるけど、あの怖い騎士のお兄ちゃんにいじめられたの?」
近くにいた幼い少年がそう声をかけてくる。
他の男の子たちも、シルヴァの悪口を口にし始めた。
だが、すぐに近くにいた女の子が否定する。
「男の子たちは何もわかってないわね……! あの怖い顔の騎士様は、お姉ちゃんにぞっこんだったわ……むすっとしてたけど、お姉ちゃんに話しかける時だけ、すごく優しかったもの」
「そうそう、すごく大事そうに手をひいたりしてたし……まさに、絵本に出てくる姫に仕える騎士のような振る舞いだったわ――あのお兄ちゃんにとってのお姫様は、天使のお姉ちゃんだってすぐにわかったわ」
少しだけませた印象のある女の子たちが口々にそう言った。
そして――。
――子どもたちの一人が驚くべきことを口にする。