悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――


 冷静に考えてみると、セピア公爵令嬢の話にも違和感が拭えない。

(セピア公爵令嬢の言い分だと、シルヴァお兄ちゃんがセピア公爵令嬢との結婚を了承していれば、クラーケと私の婚約破棄はなかったというように主張していた)

 だけど――。

(お兄ちゃんが結婚の返事をする前に、セピア様はクラーケの子を妊娠していたと話していたわ……だったら、お兄ちゃんが返事をしようがしまいが、セピア様はクラーケと身体の関係を持っていたということ……)

 ぼんやりと考えを進める。

(セピア様の言い分だと、彼女との結婚を選ばなかったから、シルヴァお兄ちゃんの出世の道が閉ざされたというものだったけれど……そもそもセピア公爵令嬢がクラーケと関係を先に持っていたのに、手を出していないシルヴァお兄ちゃんの出世の道が閉ざされるのは、なんだか変な気がする……)

 結論としては、それぞれの言い分のつじつまがどことなく合わない気がするのだ。

(そもそもセピア公爵令嬢は、いったいいつからクラーケと関係を持っていたのかしら? まだあまりお腹も出ていないようだったけれど……)

 それに、公爵令嬢である彼女なら、わざわざ産院に出向かずとも、屋敷に産婆を呼ぶことだってできるはずだ。

(やっぱり、色んなことがおかしい気がする……)

 そして――。

 数日間、シルヴァと会わなくなったことや、子どもたちのおかげで、少しだけ彼についても冷静に考えることができるようになってきている。

 銀色の短い髪に、碧色の瞳をした、精悍な顔立ちをいつも不愛想にしている、幼馴染の青年騎士――シルヴァ・エスト。

(子どもたちの言うことは本当に違いないわ……ずっとシルヴァお兄ちゃんは、私のことを影で見守ってくれていた……)

 そんな彼が、わざわざセピア公爵令嬢への当てつけのためだけに、私に結婚を申し込んでくるはずがない。

(そうよ、小さい頃から、お兄ちゃんは私に優しかった……)

 段々と、心の靄が晴れていくようだった。

 あとは――。

(なぜか、私に嫌われることばかり自分はしているとシルヴァ本人は言い張っているのは気になる)

 少しだけ、頭をひねる。

(だけど、お兄ちゃんは私の嫌がることはしないわ……もしかして、影で見ていたこと……? それとも……)

 その件に関して、少しだけ心当たりが沸いて出てきた。


「……シルヴァお兄ちゃんに会って話を聞かなきゃ……」


 そして――。

――嫌いだって言ったことを謝りたい。

 だって、本当は、私はシルヴァお兄ちゃんのことを――。

 
 そんなことを考えていると――。


「きゃああっ――!」


 屋敷の門扉のところから、小さな女の子の悲鳴が聴こえた。


「どうしたの――!?」


 駆け寄ると、そこには――。


「やあ、リモーネ、迎えに来たよ――僕と一緒に行こうか」


 ――赤茶けた髪の優男――元婚約者のクラーケと、ガラの悪そうな男たち数名が、立っていたのだった。


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