悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――
第12話 この一件、一番得してるのはお兄ちゃんじゃないですか?
もう月も頂点に差し掛かろうという頃、私とシルヴァは屋敷に帰りついた。
池の中に落ちたこともあり、シルヴァの銀色の短い髪も、私の栗色の髪も、まだ乾ききっていなかった。
そのため、部屋に戻る前に湯あみをすることにしたのだ。
湯から上がり、部屋へと戻る。
(ふう、今日は色々あったけれど、さっぱりした……)
なんだか、色々な憑き物がとれたようで、なんだか幸せな気持ちがする。
そうして、部屋へと戻り、扉を開けるとそこには――。
「リモーネ……嘘をついてしまって、本当に悪かった……もう信じてもらえないかもしれないが、本当に悪いと思っている――」
――土下座して謝罪するシルヴァがいたのだった。
「シルヴァお兄ちゃん、もう気にしてないから……その、顔を上げてくれる? あと、せっかくお風呂に入ったんだし、床に座り込まなくて良いから……ね?」
私は右手を差し出しながら、シルヴァに微笑みかける。
彼は私の手を取って立ち上がったかと思うと――
「きゃっ――! お兄ちゃん……!」
――突然がばっと私を抱きしめてきた。
「あ……あの……」
私が声をかけると、シルヴァがはっとしたように離れた。
「すまない……無意識というか、身体が勝手に動いたというか……ああ、全部本当なんだが、言い訳にしか聞こえないな……」
そうして、彼はためらいがちに私に告げた。
「どうしてもお前が可愛くて、我慢が出来ないんだ――」
不愛想なシルヴァが、首まで真っ赤にしながら、そう告げてくる。
彼の様子を見ていると、なぜだかこちらまで恥ずかしくなってきた。
「だけど、お前のことを大事にしたいのも本当で……だけど、俺の精進が足りなかったばかりに、お前の誤解を招くようなことになってしまった……本当に申し訳なかったと思っている」
シルヴァはどうやら、私が先日怒鳴ったことを気にしているようだった。
いつもは不愛想な彼だが、今日は気分の浮き沈みが激しく、表情の変化がめまぐるしい。
「こんなことばかりするから、昔から、俺はお前に嫌われてしまって……」
そう言って、彼の表情が翳った。
落ち込む彼に向かって、私はおずおずと問いかける。
「その……シルヴァお兄ちゃんが、私に嫌われているって思ってるのは……お兄ちゃんが騎士学校に入る時に、私が大嫌いって言ったから?」