悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――
そんな私の身体を、シルヴァが黙って抱き寄せた。
私の耳元に彼の唇が近づく。そうして悩まし気な低い声で、彼は話し出した。
「騎士になって武勲で名を馳せて、爵位を賜ったら、お前に結婚を申し込める……そう思ったんだ――」
彼の言葉を聞くと、なんだか胸がしめつけられるようだった。
「孤児院以外でも、たまに舞踏会の警護なんかでお前の姿を見ていた。お前に婚約者が出来て、ああ、俺に言ったことなんて覚えていないんだな……独りよがりな気持ちだったんだなって――そう、思って……」
独白するように、彼は私に訴えてきた。
「そのくせ、お前が破談になったって聞いたら、すぐ指輪を買いに行って――もしかしたら覚えているかもしれないって、お前が欲しがってた碧色の宝石の指輪を選んで――なのに、お前を目にしてついた言葉は『爵位がほしい』って嘘をついて……」
最後、シルヴァの声が聴こえづらくなった。
私の首元に、ぽたりと温かいものが落ちてくる。
「シルヴァお兄ちゃん……!」
やっとお互いの本心を伝え合うことが出来て、緊張の糸が切れてしまったのか、お互いの瞳から涙が止めどなく溢れて流れていった。
しばらく二人して、離れていた時間や気持ちを埋め合うように、その場で抱きしめ合って過ごした。
先に落ち着いたシルヴァが、私の肩から顔を離す。
彼は、私の瞳を覗き込みながら、真剣な声音で告げてきた。
「もう一度、ちゃんと言わせてほしい――」
彼の碧の瞳に、私の泣きはらした顔が映っている。
私はその場から動けなかった。
彼の瞳の色は、まるで私を腕の中に捕らえて離さない、蔓を思わせる深緑をしていて――。
「リモーネ……お前を愛している。偽物なんかじゃない、俺の本当の妻になってくれ――」
彼の私を呼ぶ声音が、あまりにも愛おしそうで――。
心臓が壊れないかと心配になるほどに、ドキドキと高鳴っていって――。
最初に求婚された時と同じ質問を、彼に繰り返される。
「リモーネ、返事は……?」
前よりも、なぜだか不安そうにシルヴァは尋ねてくる。
私の気持ちは伝わったのだと思ったけれど、まだ何も伝えていなかったことに気づく。
最初のプロポーズの時とは違い、返事と共に、私は気持ちも付け足すことにした。
「はい……私を……大好きなシルヴァお兄ちゃんのお嫁さんにしてください――」
返事を聞いたシルヴァが、子どもの頃のように、私の身体を高く持ち上げる。
「ありがとう、リモーネ」
そうして、彼は爽やかに笑った。
「お兄ちゃん、びっくりしたじゃない――」
私がそう言うと、少しバツが悪そうにシルヴァは言う。
「あ、ああ……悪い、嬉しくなってしまって……そうだ、もうお前は子どもじゃなくなっていたんだった……」
そう言うと、彼は視線が同じくらいの高さになるように、私の腰を抱きかかえなおした。
(私、そんなに軽くないと思うんだけど、片腕で私を担げちゃうなんて、お兄ちゃんったら力持ちね……)
そんなことを考えていると――。
彼の顔がゆっくり近づき、そのまま唇同士が触れ合った。
何度かついばむようなキスを繰り返され、ちゅっちゅっと音が鳴る。
そうして、彼の舌が、私の唇を何度か舐めたかと思うと、唇を吸ったり、軽く食んできたりした。
だんだん、彼が唇を激しく求めてくるようになる。
彼の舌が、私の唇をこじ開けた。
「あっ……んっ……シルヴァ、お兄……あっ……」
彼の舌が、巧みに私の舌を躍らせたり、包み込んでくる。
次第に、息をもらさないほどに深い口づけへと移っていく。
重なり合った唇同士に隠れて、舌同士がぐちゅぐちゅと激しく愛撫を繰り返していた。
今度は練習じゃなくて、本当に好きな人たち同士がする口づけを、私たちは交わし合う。
「はぅ……あっ、お兄ちゃ……」
唇同士が一度離れ合った時に、シルヴァがこちらに確認をとってきた。
「すまない――また我慢できずに……性急すぎただろうか――?」
彼の問いに、私は首を横にふるふると振った。
そんな私にシルヴァが優しく微笑んだ後――。
「お前の心も身体も――全てを――俺のものにしたい――」
情熱的な瞳で見つめられ、私はこくんと頷いた。
そうして、彼に抱かれたまま、白いベッドへと向かったのだった――。