悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――
その晩――。
シルヴァは予言通り、私の屋敷に現れた。
一応、今まで客室として使っている部屋を彼の部屋にしようと思っていたのだが、ふりとは言え夫婦になったからと説明され、二人で私の部屋の中で過ごすことになった。
「使用人たちも減ったと聞いた。屋敷の扉には鍵をかけておくことだ」
「え……えっと……は、はい」
私が口ごもっていると、しんとした静寂が訪れる。
「あ……あの……」
私が何か言いたそうな雰囲気に気づいたのだろう、シルヴァが無表情のまま、こちらをじっと見つめてきた。
「昼は急いでいたから、あまり時間が取れなかった。今なら話を聞ける。ゆっくり話してくれ――」
昼はわりと強引さが目立ったシルヴァだが、小さい頃からどんくさかった私の話をシルヴァは一生懸命聞いてくれていたことを思い出す。
私の言葉を、彼はゆっくりと聞いてくれた。
「シルヴァお兄ちゃんは、爵位が欲しいから……結婚したのよね……? 夫婦のふりだけで良いのよね……?」
彼は眉根を寄せたかと思うと、ふっと視線をそらす。
「ああ、そうだが……」
「そう、よね……」
私は安堵したような寂しいような、そんな気持ちになった。
(だけど、はっきり聞けて良かった。その方が、期待して傷ついたりしなくてすむもの)
複雑な心境に陥っている私に向かって、シルヴァが声をかけてくる。
「それでは、横にならせてもらう」
「え――?」
シャツだけになった彼は、私のベッドの上に転がった。
「え? え? 同じベッドで寝るの……?」
(だって、偽装結婚なわけで……同じベッドで寝る必要性は――)
「ああ、使用人たちに偽の夫婦だとバレるかもしれないだろう?」
(そ、そんなもの……!?)
戸惑っていると、シルヴァがこちらを見ながら伝えてくる。
「リモーネが嫌なら、俺は床で寝るが……」
「床……! そんなことは出来ません……!」
(ここは、勇気を出して……!)
そうして、私はおそるおそるシルヴァの眠るベッドの上に入ったのだった。