悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――
後日談 お兄ちゃんはもう卒業です!


 結婚式が終わった後も、しばらくの間、私とシルヴァの二人は、教会で情事を重ねていた。
 太陽はもう沈んでしまっている。シルヴァの銀の髪も、月明かりに照らされて、少しだけ金を反射している。
 教会の中には、花の香りが漂ったままだ。

「リモーネ……」

「あっ……おにぃ……っ」

 ギシギシと木で出来た聖壇が軋む。
 私の身体の上に跨るシルヴァの首にぎゅっと腕をまわしたまま。
 激しく彼に腰を撃ちつけられ、触れ合う肌と濡れた粘膜同士の擦れる音が、パンパン、じゅぶじゅぶと、神聖な場所に響いていた。

「あ、あっ、シルヴァ……お兄……ああっ……!」

「俺の可愛いリモーネ――愛してる――」

 そうして、もう今日だけで何度目かは分からない精を、胎内に向かって大量に注がれる。
 彼の騎士団のコートも、私の純白のウェディングドレスも、ぐちゃぐちゃに互いの体液で汚れてしまっていた。

「は……シルヴァおにぃちゃん……」

「リモーネ……何度抱いても飽き足りない――愛してる――」

 荒い呼吸のまま、シルヴァが私の唇を塞ぐ。
 くちゅくちゅと舌を絡ませ合った後、ゆっくりと離れた。
 しばらく抱きしめ合い、余韻に浸っていると、シルヴァが声をかけてくる。

「なあ、リモーネ……」

「なあに、お兄ちゃん……」

「その――」

 ちらりとシルヴァは視線をそらす。普段は寡黙で不愛想なシルヴァが、何やらもじもじとしていた。

「シルヴァお兄ちゃんと呼ばれるのも、もちろん嬉しいんだが――その……」

 言葉につまりながら、シルヴァが口にしたのは――。

「夫婦になったわけだから、こう、呼び捨てにしてもらっても、いいわけで……たまにで……いいから」

 彼はもごもごと呟いた。

(確かに、ずっとお兄ちゃんと呼ぶのも、周りが変だと思うのかしら)

 聖壇の上で抱きしめ合ったまま、私は彼に向かって口を開く。

「シルヴァ――」

 夫の顔がぱぁっと明るくなる。

「――お兄ちゃん――」

 シルヴァの顔が一気に翳った。

(シルヴァお兄ちゃん、一喜一憂してる……)

 気を取り直して、もう一度名を呼ぶことにした。

「シルヴァ――」

 また、夫の顔がぱぁっと明るくなる。

「――お兄ちゃん――」

 再び、シルヴァの顔が一気に翳った。

「シルヴァ――」

 何度か同じやりとりを繰り返していると――。

「リモーネ、俺をからかって遊ぶのはやめてくれ――!」

 ついに、シルヴァが憤慨した。
 寡黙だと言われている彼の面白い一面を、自分だけが知っているのだと思うとおかしくて、くすくすと笑う。


「ごめんなさい、つい――これからもよろしくね、シルヴァお兄ちゃん――じゃなくて――」

 私は自分から彼にちゅっと口づけた。


「――シルヴァ――」


「リモーネ――!」

「きゃっ――!」

 感極まったシルヴァは、私をまたがばっと聖壇に押し倒した。

「もう一度、名を呼んでくれないか?」

「シルヴァ――んっ……」

 彼が唇を塞ぐ。離れると――。

「もう一度――」

「シルヴァ――んんっ――」

 より深い口づけが訪れる。

「リモーネ……愛している――名前を呼ばれたら、もう一度、お前を抱きたくなった――良いだろうか――?」

(ええっ――! もう何回目なの――!?)

 戸惑いはしたものの、私はこくりと頷いた。


「はい、お願いします、シルヴァ――ああっ……!」

 まだつながったままだった結合部が、ぐちゅりと音を立てた。


「ああ、愛してる――リモーネ――」


 そうしてまた、神聖な場での、二人の情事は再開される――。


※※※



 ちなみに――呼び慣れていないので、時々シルヴァお兄ちゃん呼びにいきつ戻りつ、数年かけて、徐々に彼の名前だけを呼べるようになったのでした。


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