悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――
シルヴァが出ていったベッドの中で、私は一人悶々と考えて過ごしていた。
(子どもの頃とはやっぱり違う……お兄ちゃんも大人の男性になってしまった……)
優しく接してくれた少年時代のシルヴァのことを思い出す。
(……本当の夫婦なら当然の行為だけど、私達は偽物の夫婦……クラーケもさっきみたいなことをしたから、セピア公爵令嬢に赤ちゃんが出来たわけで……やっぱり男の人は皆考えることは一緒なんだわ……)
騎士学校に行ってから、シルヴァがどう過ごしていたのかは知らない。
シルヴァもクラーケのように、特定の女性以外にも手を出したりしていたのだろうか。
(爵位だけじゃなくて身体も目当てだった……? だけど、シルヴァお兄ちゃん本人もはっきり言ってたじゃない、爵位目当てだって……)
偽の夫婦だということもあり、何か本当で何が嘘なのかが分からなくなってくる。
(昔は、嘘をつくような人じゃなかった……だけど、お兄ちゃんだって大人になって嘘をつく人間になったのかもしれない)
なんだかよく分からなくなって胸が苦しい。
涙がとめどなく溢れてくる。
その時――。
「リモーネ……!」
部屋の扉が勢いよく開かれた。
扉の方を見ると、精悍な顔立ちをした青年シルヴァが立っている。
彼はそれ以上は部屋には入ってこずに、私に話しかけてきた。
「リモーネ、言い訳がましいとは思うかもしれないが……俺は相手と繋がる行為は、好いた者同士がやるべきだと思っている」
彼が息を深く吸った。
「いくら寝ぼけてたとは言え、誰にでもああいうことを俺はしない……相手は間違えない……」
シルヴァが続ける。
「お前から腕に触れられて……夜目にも分かるぐらい、恥じらうお前を見て我慢が出来なくなったんだ……だが、相手に子ができて婚約破棄したお前相手に、俺が短慮だった……それだけだ」
すごく真剣な口調でそれだけ言うと、シルヴァは部屋から立ち去った。
また部屋に一人になった私はぽつりと呟いた。
「シルヴァお兄ちゃん……やっぱり嘘つきになってる……」
『お前から腕に触れられて』と、確かに彼はそう言っていた。
「寝ぼけてるなんて、嘘じゃない……」
それはつまり最初から彼は目を覚ましていたということだ――。
『……俺は相手と繋がる行為は、好いた者同士がやるべきだと思っている』
「シルヴァお兄ちゃんは何を考えてるの……?」
その夜は、なんだか胸がどきどき苦しくて仕方がなくて、結局一睡もとることが出来なかったのだった――。