悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――
第4話 視察に出かけたら、お兄ちゃんの様子が変です
休日――。
王都からは少し離れた場所にある、伯爵として統治している村の視察へと、シルヴァと私は向かうことになった。
父が亡くなり使用人たちが激減し、馬車を操る御者もいなくなり困っていたのが、代わりにシルヴァが馬の背に乗せて、私を連れて行ってくれることになったのだ。
出かける直前、私へ手紙が届いていた。蝋をとかし、封を開ける。
中に書かれていた言葉に、私の胸はえぐられる。
『セピア公爵令嬢の恋路を邪魔したあげく、人気の騎士シルヴァ・エストを誑かした悪女』
心無い誹謗中傷に、心臓がずきずきと痛む。
「リモーネ、どうした?」
手紙を持って固まっていた私の元に、偽の夫であるシルヴァが現れた。
ちらりと便箋に書かれた内容を目にした彼の、精悍な顔立ちが曇る。
「あ――!」
私の手から手紙を奪い取ると、彼はぐしゃりとそれを握りつぶした。
「くだらない。リモーネ本人を見れば、どんな人間かは分かるというのに」
いつもは無表情なシルヴァが、怒りをあらわにしていた。
「お、お兄ちゃん……」
「お前のことを知らない誰かの嫌がらせだ。気にすることはない。俺はお前がそんな女ではないと知っている。さあ、村に向かうぞ」
そう言うと、さっさと彼は愛馬の元へと歩き出した。
世間からは非難されてしまっている。
それはすごく苦しいことだ。抜け出せるなら抜け出してしまいたいほどに、暗いどこかに閉じ込められてしまったような、そんな重苦しい気持ちがとれることはなかなかない。
だけど、たった一人でも自分のことを理解してくれる人がいる。
(お兄ちゃん……)
彼の存在は、暗闇の中に差す一条の光のようで、私はなんだか救われるような気持ちになったのだった。