悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――
シルヴァと私の二人で馬に乗り、目的地の村へと向かう。
馬上では、手綱を操るシルヴァの大きな体に、私の身体は包み込まれるようにしていた。
背中に彼の逞しい背中が触れて、終始ドキドキと落ち着かない。
(昔から私よりも大きかったけれど、こんなにがっちりした体格になるなんて……恥ずかしい……)
霊峰の麓にある村までは少し距離がある。途中、馬の脚を休ませがてら、林の木陰で休憩をとることになった。
地面から天に向かって背の高い木々が生えている。空から差す光が、地面に影を作り、葉が揺れていた。まだ昼間だが、少しだけ薄暗い。
鮮やかな野苺の茂みが遠目に映り、甘い果樹の香りが鼻腔をつく。
「辺鄙な場所だから、なかなか人も寄り付かないようだな」
馬から降ろされ、切り倒された丸太の上にそっと運ばれた。
「リモーネ、疲れてはいないか?」
シルヴァが無表情のままこちらに問いかけてくる。
私はこくりと頷いた。
「そうか。水の音が聴こえる。近くに小川があるようだ、新鮮な水を汲んでくるから待っていろ」
そう言って、私に背を向けて彼は歩きはじめる。
「あ……!」
見知らぬ場所に一人と言うのはなんだか怖い。
彼の後を追って、一緒に向かいたいと告げようとしたその時――。
「きゃっ――!」
ドレスの裾を踏み、勢いよく転んでしまった。
「いたた……」
「リモーネ、大丈夫か!?」
地面に倒れた私の元に、シルヴァが慌てて帰ってくる。
「だ、大丈夫――」
その時、私の身体がふわりと地面から浮いた。
(あ――)
気づけば、彼の鍛え抜かれた腕に抱きかかえられていたのだった。
横抱きにされたわたしの顔に、精悍なシルヴァの顔が近づいて、ドキドキが落ち着かなくなっていく。
「相変わらずだな……足首が腫れている。川で冷やそう」
低い声には、私への心配が滲む。
そうして、二人で小川に向かうことになったのだった。