あなたの幸せを祈って……
すると……

「悠! 悠はどうした?」

心配した国王陛下が白石さんを呼ぶ。

白石さんが、おずおずと私の部屋から出てくるのを見て、国王陛下は全てを察したようだった。

「悠、覚えておけ。
 声は届かなくても思いは届く。
 誰かが由良を傷つけようとすれば、俺はどこにいても、由良の思いを受け取って必ず助けに来る」

国王陛下のこんな低くて厳しい声は初めて聞いた。

「由良、俺の部屋へ来るか?」

優しい声で尋ねられ、私はこくりとうなずいた。

国王陛下は、左手で私を胸に抱き、右手で私の部屋を持ち上げると、白石さんをその場に残して歩き出した。

国王陛下は、自身の寝室のサイドテーブルに私の部屋を置き、私も下ろした。

「ここなら、一晩中でも由良の話が聞ける。
 これからはずっと一緒だ」

国王陛下は、大きな手でぎこちなく私の頬の涙を拭ってくれる。

「国王陛下……」

その優しさに触れて、止まりかけた涙がまたあふれ出した。

「ジェラールでいい」

ジェラールって、国王陛下の名前?

私は、涙を拭って国王陛下を眺める。

「ジェラール?」

私がそう呼ぶと、彼は嬉しそうに微笑んだ。

「由良、なんでもいいから、話してくれないか?
 由良がどんな世界でどんなふうに育ってきたのか知りたい」

私は、思いつくまま、幼い日の出来事や両親との思い出などを語り始める。

ジェラールが、私の部屋からベッドを出してくれたので、ジェラールの顔を眺めつつ、横になりながら、ポツリ、ポツリと思い出を語っているうちに、気づけば眠りに落ちていた。

きっと、それがジェラールの優しさだったんだろう。

私は、昨夜の恐怖に(さいな)まれることなく、眠ることができた。
< 10 / 13 >

この作品をシェア

pagetop