【書籍化】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック2巻発売中】
 仕事終わりに話したジョルジオは、笑いながらきっとそうなると思っていたと言って頷いた。相談の結果、今日荷物を整理した後に鍵はまた後日返すことになり、仕事終わりに隠れ住もうと思っていたあのかわいい家へと徒歩で向かう。その道中に何かざわざわとした騒ぎがあった。野次馬が取り巻いて痴話喧嘩なのだろうか、男女二人の声がする。

「……なんで急にそんなことを言い出すのっ!」

「もう、お前とは終わったと言っただろう。もう近寄らないでくれ」

 スイレンは高く響いたその声に聞き覚えがあった、もしかして女性の方はリカルドの元婚約者のイジェマではないだろうか。

 人垣から何とか顔を出して確認すると、やはり見覚えのある金髪の美しい令嬢が、これまでに見たことのない程、美しい青年に縋っていた。高価な生地で出来ているであろうドレスの裾は土にまみれてしまっている。その顔には涙の跡があり、儚げな容姿もあり思わず庇護欲を誘われる。

 だが、その細くて白い手を美しい青年は無表情で手を振り払うと、馬車に繋いであった馬を一頭外すように御者に指示をすると、その馬に乗って行ってしまった。

 一際大きな声で泣きだしたイジェマを見ていられなくて、スイレンは人をかき分けて前に出た。外野からなんだなんだと声がするがそれを無視をして、ドレス姿でしゃがみこんでしまっているイジェマを無理矢理に立たせると傍近くにあった馬車の中へと導いた。御者はあまりの事態にどうして良いかおろおろと混乱しているようだ。
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